トムソンの比電荷を調べる実験でお困りの人!ぜひこの記事を丁寧に読んでみてくださいね!
比電荷とは
比電荷は,
電子の「質量あたりの電荷の量」
のことです.
定義の式で表すと,
$$比電荷=\frac{e}{m}[C/kg]$$
\(\frac{e}{m}\)という比のことを比電荷と呼んでいるわけです.
この比電荷を求めた有名な実験があるので,計算方法も含めてみていきます.
トムソンの実験
実験の概要
陰極線の正体が電子だという予想を確かめるために行った実験.
電子が本当に負の電荷をもっているのなら,電場や磁場の影響を受けるはず.
原理はざっくりこんな感じ
電場の影響を受ける陰極線
↑の図のような装置で電極1,2に電圧を加えることで均一な電場が発生します.その電場内を電子が通過すると,電場の影響を受けて進路が曲がるはずです.
電子は負の電荷をもってるので,+側の電極のほうに引き付けられるはずです.この図で言えば電子の進路は上下方向に曲げられるはず.
磁場の影響を受ける陰極線
今度は磁場の影響です.
↑のような装置を用意して磁場を作り,電子を通過させます.
磁場内を進む荷電粒子は必ずローレンツ力\(f=qvB\)を受けて速度方向に対して常に垂直な力が働いて円運動をします.
電子も電荷をもっているので例外ではなく,ローレンツ力によって進路が曲げられるはずです.
上の図でいえば,フレミングの左手の法則から画像の奥側か手前側に進路が曲がるはず.
座標を定めて実際に比電荷を求める
上の2つを合わせた装置を作って座標を定めます.電場や磁場のかかる区間をA,区間Aを抜けて電子が等速直線運動する区間をBとします.
磁石,電極ともに電子が通過する部分の長さは\(l\)です.
電子が当たると発光するように蛍光板を設置して,座標を図のように取ります.
- 画面上下方向に\(x\)軸
- 画面奥行き方向に\(y\)軸
- 画面左右方向に\(z\)軸
とします.
電場を加えた場合
最初に条件を与えます.
$$電子の質量:m$$
$$電子の持つ電荷の大きさ:e$$
$$蛍光壁に移されたときのx座標をx_0とする$$
方針
- 上下方向(\(x軸方向\))の加速度\(a\)を求める
- 電子が電極を通過するまでの時間\(t_1\)を求める
- 1と2から,区間Bでの電子の上下方向(\(x軸方向\))の速度\(v_Bx\)を求める
- \(a\)と\(t_1\)から,区間Aでの\(x\)軸方向の移動距離を求める
- 電子の画面左右方向(\(z軸方向\)の速度\(v\)と 蛍光壁までの距離\(L\),電極の長さ\(l\)から,区間Bでの\(x\)軸方向の電子の移動距離\(x_B\)を求める
- 5と6を足した式と\(x_0\)をイコールで結んで等式を立てる
- \(\frac{e}{m}\)を求める
4.は電子が蛍光壁に到達するまでの時間を求めて\(v_Bx\)との積をとっても算出できます.
電場を与えると,電子に働く力は,電子のもつ電荷を\(e\),与えた電場を\(E\)とすると,
$$F=eE$$
となります.
電子の質量は\(m\)なので,電子についての運動方程式を立てると
$$F=ma$$
となります.この2式を連立して\(a\)について解くと,
$$ma=eE$$
$$a=\frac{eE}{m}$$
電子が電極を通過するまでの時間\(t_1\)は,
$$vt_1=l$$
$$t_1=\frac{l}{v}$$
\(a\)と\(t_1\)から,区間Bでの電子の上下方向(\(x軸方向\))の速度\(v_Bx\)は,
$$v_Bx=a \times t_1$$
$$v_Bx=\frac{eE}{m} \times \frac{l}{v}$$
区間Aでの移動距離\(x_A\)は,
$$x_A=\frac{1}{2}at_1^2$$
$$x_A=\frac{eEl^2}{2mv^2}$$
電子の画面左右方向(\(z軸方向\)の速度\(v\)と 蛍光壁までの距離\(L\),電極の長さ\(l\)から,区間Bでの\(x\)軸方向の電子の移動距離\(x_B\)を求める
\(v\)と\(v_Bx\)から\(\tan \)を計算して,区間Bの長さを掛け合わせても計算可.
とりあえず\(x_B\)がでればいいんです.今回は一発で計算するために比でやります.
比でやると,
$$v:v_Bx=区間Bの長さ:x_B$$
代入して,
$$v:\frac{eEl}{mv}=L-\frac{l}{2}:x_B$$
$$x_B=(L-\frac{l}{2})\frac{eEl}{mv^2}$$
さっき計算しておいた\(x_A\)と\(x_B\)を足して,\(x_0\)とイコールで結びます.
$$x_0=\frac{eEl^2}{2mv^2}+(L-\frac{l}{2})\frac{eEl}{mv^2}$$
$$x_0=\frac{eEl}{mv^2}L$$
これで一応数値的には比電荷を求めることができます.\(\frac{e}{m}\)について解くと,
$$\frac{e}{m}=\frac{v^2L}{El}x_0$$
教科書だと,このまま磁場による曲げられ方に入っていきます.
なぜ答えが出ているのに磁場による曲げられ方も必要なのかは,ズバリ\(v\)に原因があります.
\(v\)は実際に観測することはほぼ不可能なくらい速いので,式の中に入っていては困ります.
そこで,\(v\)を消去するために磁場での運動も調べたというわけです.
磁場を加えた場合
今度は電場は無視して,磁場だけが掛かっている状況を想定します.
座標はさっき定義したのをそのまま使います.
初期条件
$$電子の質量:m$$
$$電子の持つ電荷の大きさ:e$$
$$蛍光壁に移されたときのy座標:y_0$$
方針
- 磁場で曲げられる円軌道の半径を求める
- 図形(三角形)の問題として各辺を求めて,磁場内での\(y\)軸方向の変位\(y_A\)と磁場外での等速直線運動による\(y\)軸方向の変位\(y_B\)を求める
- \(y_0\)と\(y_A\)+\(y_B\)をイコールで結ぶ
等速円運動の半径を出すために遠心力とローレンツ力のつり合い式を立てます.
$$m\frac{v^2}{r}=evB$$
$$r=\frac{evB}{mv^2} \tag{1}$$
次に,下の図のように弧DFの円周角を\(α\),弧DFの中心角を\(β\)と定義します.
円周角と中心角の関係より,
$$α=\frac{β}{2}$$
である.
また,\(α\)が十分に小さい時,一般に\(\tanθ \simeq θ\)と近似できるので,
$$y_1=l \tan α \simeq lα=\frac{lβ}{2} \tag{2}$$
$$y_2=(L-\frac{l}{2})\tan β \simeq (L-\frac{l}{2})β tag{3}$$
\(y_0=y_1+y_2\)と(2),(3)式より,
$$y_0\simeq \frac{lβ}{2}+(L-\frac{l}{2})β $$
$$y_0\simeq Lβ$$
となります.
さらに,\(β\)が十分小さいとき,\(β\simeq \displaystyle \frac{l}{r}\)と近似できるので,
$$y_0 \simeq Lβ \simeq \frac {Ll}{r}$$
上式と(1)式より,
$$y_0 \simeq \frac{eLlB}{mv}$$
以降,\(y_0 = \frac{eLlB}{mv}\)とする.
\(v\)について解いて,
$$v=\frac {eLlB}{my_0}$$
これを電場の場合で出した答えの\(v\)に代入してあげると,
$$\frac{e}{m}=\frac{(\frac {eLlB}{my_0})^2L}{El}x_0$$
$$\frac{e}{m}=\frac {Ey_0^2}{LlB^2x_0}$$
となります.以上で比電荷の計算は終了です.
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